徳島地方裁判所 昭和26年(行)12号 判決
原告 伊藤義兼
被告 徳島県土地収用審査会
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告収用審査会が原告所有の別紙目録記載の土地に対して為した昭和二十六年四月十七日附裁決は之を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求の原因として被告収用審査会は昭和二十六年四月十七日別紙目録記載の原告所有地を土地収用法(明治三十三年法律第二十九条)第二条三号に該当する事業に供するとして補償金四万九千百八十六円を以て収用する旨裁決し、同裁決書の謄本は同月二十一日原告に送達されたが右裁決は次の如き理由によつて違法である。
即ち
(一) 訴外徳島県麻植郡木屋平村(以下起業者と称する)は昭和二十三年度に徳島県立穴吹高等学校木屋平分校を設置し、爾後同村大字川井字久保所在旧青年学校々舎を使用して同分校生徒の教育を為しているが、昭和二十五年度において同村は新たに右分校のため校舎建築の計画を立て原告所有地を以てその敷地の一部に当てるべく原告に申込んで来た。よつて原告は同村大字川井字久保二二四番、同二二五番の中九畝歩を提供し、爾来その耕作を止めていた処、起業者は右土地を使用する事なく別紙目録記載の土地を価格金二万円で譲渡すべき事を求め、原告がこの申入れを拒否するや価格を四万円に昂め、なおも原告が之に応じないでいると遂に土地収用法に因る収用を申請するの挙に出たのであるが、前記分校々舎建築のためにはさきに原告が提供した字久保二二四、同二二五番地中の九畝歩を以てすれば充分であるにも拘らず被告収用審査会は土地収用法を濫用して敢て原告にとり最良の耕作地である本係争地を収用した。
(二) 更に木屋平分校は設置以来旧青年学校々舎を使用し現在に至つているが現状のままでも何等教育上支障を来たす事はなく、且つ将来同村内三ツ木及び谷口にある分校の分室を廃し之に併合するとしても現校舎の二階を増築すれば充分に収用出来るのであり、又分校に入学する高等学校生徒も減少の傾向にあるので新たに校舎を建築するのは不急の事業であるにも拘らず、かかる事情を看過して慢然と右申請を認可した。
(三) 仮りに分校のため新校舎を建築するとしても本係争地以外に適当な候補地が二、三ケ所存在するにも拘らず、殊更原告の最良の耕地を収用した。
(四) なお且つ起業者が収用審査会に裁決を求めるため提出すべき申請書添附書類は審査裁決の重要資料となるものであるからその内容は正確且つ真実でなければならないにも拘らず、本件収用について起業者が被告審査会に提出した「収用せんとする理由」及び「土地所有者関係人の交渉経過顛末書」にはその重要事項に次述する如き事実と相違する点があつてかかる不正確、不実の資料を基礎として為された裁決は失当である。即ち、
(1) 昭和二十三年度に起業者はその村議会の決議によつて本件高等学校分校々舎新築及び模様替を為した事は明白なるに拘らず、収用せんとする理由書には「昭和二十三年度において徳島県立高等学校木屋平分校の設置を見るに至り校舎とてなく小中学校の一部を融通使用し授業を行いつつあるも云々」と記述している。
(2) 同じく同書において「逐年生徒の増加により本年度入学生七十三名あり、在校生八十三名、計百五十六名(三ツ木、谷口両分室分も加え)となり明二十六年度においては約八十余名の入学生ある見込、計二百四、五十名の多数に上り到底現在の借用教室にては収用出来ざる状況にあり」と述べているが昭和二十六年度における入学生の実数は四十七名で、起業者の予想を遙かに下廻り又二十六年度生徒総数は百四十二名であつて前年度より減少している。
(3) 本分校々舎建築にあたつて原告は起業者より当初畑約三畝の譲渡方を交渉されこれを承諾し爾後その耕作を差止めているに拘らず、その後運動場をも新設する計画に変更し、更に原告より用地を買収する交渉を開始するに至つたが、この間の事情は「土地所有者及関係人交渉経過顛末書」に記載せず、又同書に原告が譲渡交渉に際り単に話の未語つたにすぎぬ事実を殊更反当十万円を要求した如く、又代替地として同村有未墾地を要求した旨記載した。
(4) 更に前記交渉経過顛末書には「教育法規によれば校地と敷地端との最短距離十メートル以上とあり又徳島県の建築法規によれば七メートル以上でなければ許可にいたらず」と断定しているにも拘らず、本二十七年には校舎と敷地端との距離が僅か二メートルの敷地に許可を得て中学校々舎を建築している点。
(五) なお被収用地に対する損失補償額算出については土地収用法第四十八条を適用すべきであるのに農地調整法第六条を適用したのは法の適用をあやまつた措置である。
以上の如く被告収用審査会の為した本裁決は違法失当の処分であるから原告は一方において昭和二十六年六月二十五日被告審査会を経由して建設大臣に対し訴願を為すと共に右裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ。被告の本案前の抗弁に対し原告は昭和二十六年四月二十一日被告より別紙目録(二)記載の如き裁決書謄本の交付をうけたので出訴期間内である同年五月一日徳島地方裁判所に訴状を提出したが、法律の知識にうとく又行政訴訟を為した経験もないため訴状の表示を誤つて告訴状と記し、且つ請求の趣旨その原因等の記載要件も欠いていたため受理されず改めて訴状作成の上同五月十四日右を提出したのであつて、事実上は最初に訴状(告訴状としるしたもの)を提出した時に訴を提起したと解するから出訴期間を徒過した事にはならない、被告の如上抗弁は失当であると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、本案前の抗弁として収用審査会の違法裁決により権利を侵害されたとする者は裁決書謄本の交付をうけた日より二週間以内に訴を提起すべきであるが、原告は本裁決書謄本を昭和二十六年四月二十一日に受領し同年五月十四日本訴を提起しているから法定の出訴期間を徒過した違法な訴であるから却下さるべきである。本案につき、原告主張事実中主張日時に主張の如き審査会を開催して裁決を為した事、昭和二十六年四月二十一日に右裁決書謄本が原告に到達した事実及び主張の如き訴願の為された事は認めるが、その他はすべて争う。本件訴が仮りに適法であるとしても被告の為した裁決には毫も違法な点は存しない訴外徳島県は昭和二十三年度において麻植郡木屋平村に県立穴吹高等学校木屋平分校を設置したが同校は従来既存の小中学校々舎の一部を融通使用していた処生徒数も逐年増加の傾向にあるため現状のままでは狭隘にすぎ教育の実をあげ得ないので独立校舎建設に対する地元民の熱望もあつて訴外起業者は昭和二十五年度において校舎八教室、小使室、便所、運動場を新設する事となり、用地買収を開始した。然して必要面積二反一畝十二歩の中原告所有の本係争地を除いて他は夫々提示価格を以て買収の承諾をうけたが原告のみは屡次の交渉にも応じないので己むなく土地収用法(明治三十三年法律第二十九号)第二条三号に該当する事業と認め昭和二十五年八月十六日附を以て当時の建設大臣増田甲子七宛に土地を収用し得る事業として認定せらるべき旨申請した処、同年九月六日附の書面を以て右認定があつた。よつて起業者は同法所定の手続に従つて土地細目の公告、土地物件調書の作成(立会人徳島県土木部脇町出張所長沖津静男)を為した。その後起業者は同法第二十二条により原告と協議したが該協議は不調に終つたので同条第二項により収用審査会の裁決を求める事となつて同法第二十四条の手続を践んで必要書類を公衆の縦覧に供した処原告より昭和二十六年二月二十七日附意見書の提出があつた。そこで同年四月十日被告収用審査会は慎重審議の結果別紙目録(二)の如き収用決定を為し原告に右裁決書の謄本を送付したのである。
かくの如く被告は土地収用法に基き終始適法な手続を履践して本係争地を収用し、且つ実質的に見るも前記の如く本件用地は高等学校設置上絶対に必要な土地であるからその収用裁決も妥当な措置で原告主張の如き違法は存しない、よつて原告の本裁決取消を求める請求は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
被告収用審査会が原告所有の別紙目録記載の土地に対し昭和二十六年四月十七日原告主張の如き裁決を為した事は当事者間に争なく、原告は右裁決の違法取消を求めるべく本訴を提起したのであるが、収用審査会の違法裁決により権利をそこなわれたと主張するものは土地収用法(明治三十三年法律第二十九号)に基き同法所定の出訴期間内に裁判所に訴を提起しなければならないがその出訴期間は同法第八十一条第三項によつて裁決書謄本の交付をうけた日より二週間以内とされている。
而して原告が昭和二十六年五月十四日本件訴状を提出した事は記録上明らかであり、本件裁決書謄本が昭和二十六年四月二十一日原告に交付された事は当事者間に争いない。此の点につき原告は当初法定期間内である同年五月一日に訴状を提出し以て本訴を提記したがその記載要件不備のため返戻され、その後右を訂正した上再び裁判所に提出したのであるから実質的には当初訴状を提出した同年五月一日に本訴を提起したものと解する旨陳述する。しかし乍ら裁判所に訴が系属するためには当事者が該裁判所に訴状を提出するを以て足りるとするとしても右書面は少くも民事訴訟法第二二四条に規定する訴状としての必要的記載事項を備える事を要し、之を欠くときは裁判長においてその受理を拒み得るのである。原告が昭和二十六年五月一日附を以て徳島地方裁判所に提出した書面に請求の趣旨及原因を明記しなかつた事は原告の自認する処であり、当裁判所が職権を以て右事実を調査するも告訴状としるした該書面には請求の趣旨及原因を欠き且つその内容も被告収用審査会が裁決に際り刑事上の責任を負担すべき違法行為を為しているから右を告訴する主旨の文言を連ねるのみで之を以ては到底収用審査会の裁決に対し権利を侵害されたとするものがその救済を得るため行政訴訟を提起せんとする意思を表示したものとは解し難い。かくて右書面のその意図する処奈辺にあるかを解し得ず、一応原告宛に返戻されたのも誠に己むを得ない措置であつて該書面の提出を以ては本件訴訟を提起したものと解する事は出来ない。その後原告において訴訟記載要件を具備した書面を作成の上之を裁判所に提出したのであるが、右が昭和二十六年五月十四日であつた事前述の如くであり従つて土地収用法第八十一条第三項に規定する出訴期間を経過しているのは明白である。然らば原告の本件訴訟は出訴期間を徒過した不適法な訴で却下さるべきであるから訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用の上主文の通り判決する。
(裁判官 今谷健一 小川豪 永石泰子)
(別紙目録省略)